目次 Index
1. 大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療
大動脈弁狭窄症とは
大動脈弁狭窄症の原因は、加齢に伴うものが増えています
大動脈弁狭窄症は、加齢に伴って増える心臓の病気です。原因は先天性と後天性があり、以前はリウマチ熱が主な原因でしたが、抗生物質の普及により減少しました。現在は、加齢による弁の変性や石灰化が主な原因で、高齢化が進むにつれて増えています。
高齢者で増えている大動脈弁狭窄症。症状がある方は、65歳を過ぎたら心臓の検査を
大動脈弁狭窄症は、最初は心臓の「弁」の病気ですが、進行すると心筋(心臓を動かす筋肉)が障害され、心臓全体の病気になります。この状態になると、弁の治療だけでは心筋の障害は回復せず、心臓は正常に働かなくなります。心臓弁膜症は自然に治らないため、早期の診断と治療が大切です。
60歳以上の
重症大動脈弁狭窄症患者数(推計)
56万人
60歳以上の全大動脈弁狭窄症患者
約284万人のうち5人に1人は重症
大動脈弁狭窄症罹患率
(日本を含む37カ国のデータ)
2.8%
60〜74
歳
13.1%
74歳以上
日本における手術治療※
(2018年)
約2万例
※SAVRとTAVIの合計症例数
-
※心臓弁膜症の有病率は、年齢とともに上がる傾向にあります。日本では、65~74歳で約150万人、75歳以上で約235万人の潜在患者がいると推測されます[1][2]。
- 1:Nkomo VT, et al. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. Lancet. 2006;368:1005-11.
-
2:総務省統計局. 人口推計の結果の概要 令和2年4月報(令和元年11月確定値). Available from:
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202004.pdf(アクセス日:2020年4月28日)
「大動脈弁置換術」と「 経カテーテル大動脈弁留置術 TAVI」
大動脈弁狭窄症に対する手術は「大動脈弁置換術」と「 経カテーテル大動脈弁留置術 TAVI(読み:タビ)」があります
歴史ある従来からの治療法「大動脈弁置換術」
胸を開け、心臓や肺を止めて、大動脈弁を人工の弁に置換する手術です。「大動脈弁置換術」は安全な手術ではありますが、開胸などの侵襲性が高いことや、人工心肺装置を用いるため、患者さんへ負担を強いることになり、ご高齢の方や、癌·ステロイド内服中·透析中の方など、肺や肝臓、腎臓などに重症な疾患を抱える方へ行うことが困難となる場合があります。
カテーテルでも治療できる「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)」
比較的低侵襲な治療法として開発されたのが「経カテーテル大動脈弁留置術 TAVI」です。TAVIは良好な治療成績を受けて適応が拡大し、現在では80歳以上の患者さんに対する標準治療となっています。75歳以上であっても、専門医師らから作るハートチームが検討しTAVIのリスクが少ないと判断されれば、患者さんと十分な検討のもとTAVIを行うこともあります。
治療方針の決定
75歳以上の患者様はハートチームで検討し、CTで形態的にリスクがなければ、患者様のご希望も踏まえ治療方針を決定します。
75歳から80歳の治療選択については、それぞれのメリット、デメリットを患者様に
十分説明した上で個々に検討することが重要です。
現在使用できるTAVI弁は3種類
カテーテルを挿入する箇所は5種類※
ハートチームがお一人おひとりの患者様に合わせて治療方法を検討し患者様へ提案されます。
経鎖骨下動脈アプローチ(TSc)
TRANSSUBCLAVIAN
鎖骨下動脈からカテーテルを挿入します。
経大動脈アプローチ(TAo)
TRANSAORTIC
肋骨上部を小さく切開し、上行大動脈からカテーテルを挿入します。
経心尖アプローチ(TA)
TRANSAPICAL
肋骨の間を小さく切開し、そこからカテーテルを挿入します。
経大腿アプローチ(TF)
TRANSFEMORAL
足の付け根にある大腿動脈からカテーテルを挿入します。
バルーン拡張型
自己拡張型
※2024年5月より経頸動脈アプローチも可能となり、5つ目の
アプローチ方法として承認されました。
- TAVI治療を行っている施設については、こちらのリンクを参照ください
- http://j-tavr.com/facility.html
2. 僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療
僧帽弁閉鎖不全症とは、本来左心室から全身に血液が送り出される時にきちんと閉じていないといけない僧帽弁に逆流を生じてしまう病気です。このMRによって息が切れる、足がむくむ、横になると苦しくて夜眠れないなどの症状が出ることがあり、このような症状が出た場合には治療の必要があります。
飲み薬で症状が十分に改善しない場合は、外科手術かカテーテル手術により弁を修復して逆流を減らす治療を検討致します。僧帽弁を支える腱索という組織が切れることで生じる逆流(器質性MR)に対しては、原則心臓外科手術による僧帽弁形成術が考慮されますが、低心機能(心臓のポンプ機能が弱ってしまった状態)に伴う逆流(機能性MR)に対しては、胸を開かずに足の付根の血管からカテーテルを使用してデバイスで僧帽弁を掴んで逆流を減らす手術(TEER:Transcatehter Edge-to-Edge Repair経皮的Edge-to-Edge形成術、図)が推奨されます。現在本邦で使用可能なデバイスは2種類あります。
2018年より使用可能となっているMitraClip (Abbott Medical社)と2023年より使用可能となったPASCAL (Edwards Lifesciences社)です。MitraClipは器質性および機能性MRいずれに対しても承認されていますが、PASCALは器質性MRのみに対して承認されています。最新の海外データでは、低心機能に伴う重症MRに対しては、MitraClip治療は薬物療法のみの治療に比べて、有意に心不全による再入院や死亡を減らせたと報告されております(1)。この治療が実際実施可能かどうかの判定が極めて重要であるため、原則術前に経食道心エコーという胃カメラのようなものを飲んでいただいて行う検査をすることでチェックします。
治療適応(ただし、PASCALについては器質性MRのみが対象)
左室駆出率20%以上で症候性の高度僧帽弁閉鎖不全(クラス3+又は4+)を有する患者のうち、外科的開心術が困難な患者の僧帽弁逆流の治療。
ただし、以下の場合を除く
- 本邦のガイドラインに準じた至適薬物療法が十分に行われていない機能性僧帽弁閉鎖不全患者
- 急性増悪
- 強心薬(カテコラミン)依存患者
- 補助循環を使用している患者
使用目的又は効果に関連する使用上の注意
強心薬(カテコラミン)の使用は、一時的であれば依存とはみなさない。
実際のカテーテル治療は、全例全身麻酔で行い、治療時間は1〜2時間ですが、僧帽弁逆流の場所や重症度によって変わります。全ての治療ステップは、経食道心エコーで確認しながら進めていきます。治療後、比較的速やかに通常の生活に復帰することが可能となることが多いです。
参考文献
- Stone GW, Abraham WT, Lindenfeld J, et al. Five-Year Follow-up after Transcatheter Repair of Secondary Mitral Regurgitation. N Engl J Med. 388:2037-2048, 2023